ワンポイント講座 No.5

位相速度と群速度

 アインシュタインの相対性理論によれば,「光より速くは走れない」または「光より速く情報を伝えることはできない」はずです。それでは,プラズマ中の電磁波の速度が光の速度より速いというのはどこか間違っているのでしょうか? そうではありません。波の速度には「位相速度」と「群速度」があり,プラズマ中で光の速度より速くなるのは「位相速度」なのです。

 通常「波の速度」という時には,「波の山が進む速度」を意味します。これが「位相速度」です。例えば,x 軸を右向きに進行する波は,波長λ,周期 T,振幅 A に対して以下のような式で表されます。

ここで, は「波数」, は「角周波数」です。
 この括弧の中の を位相といいます。cos のピークは の時なので,山の動く速さは,
となるわけです。これが位相速度です。ところが,この位相速度は見せかけの速度なのです。

 例えば,池の水面を伝わる波を考えてみましょう。池に石を投げ込むと,落下点から同心円上に波が発生しますが,波が進んでも池に浮かぶ木の葉は波と一緒に移動しません。上下に振動するだけです。波が伝わっていても池の水面は上下しているだけなのです。動いているように見えるのは,振動が進行方向に連なっているからです。下の図は,球が動いているのではなく,タイミングを合わせて色を変えているだけなのですが,赤い球が動いているように見えますね。

 それでは,波に「情報を乗せて送る」にはどうすればいいでしょうか?例えば,池に石が着水した瞬間は波はありません。よって,そこから離れたところにある木の葉は「止まってます」が,しばらくすると波が伝わってきて「動き出します」。この「波が発生した」という情報が伝わる速度は「位相速度」ではないのです。

 なぜなら,情報を送るには波に「変化」が必要だからです。通信工学的には「変調」が必要であると言えます。例えば,ラジオ電波に乗せて音声を送ったり,テレビ電波に乗せて画像を送ったりするには「変調」が必要なのです。この変調された状態の伝わる速度は,位相速度ではなく,「群速度」になります。例えば,振幅変調とは振幅を時間的にゆっくり変化させることで情報をのせます。AMラジオはこの方法をとっています。この場合,波の関数は


です。

例えば,上図のように g(x,t) として,正弦波を乗せてみましょう。

これは分解すると,

となるので,2つの周波数の異なる波を重ね合わせたことに相当します。実は,波を変調するには単一の周波数の波では不可能で,必ず複数の周波数の波が必要になります。一般的に波の周波数ωと波数 k(または波長λ)には関係(分散関係)があるので,k が決まればωが決まります。つまり,ωは k の関数 ω(k) なのです。ということは,波数が k+k1 の時の波の周波数は,k1が小さいとしてテーラー展開すると

であり,この中心のω(k) からずれた部分がω1 にならねばなりません。このことから,変調波の位相速度は

となります。この変調波の速度を「群速度」といいます。群速度は ω の k に対する変化率になります。

プラズマの分散関係は


を,ωについて解いてやれば,

なので,群速度を計算してやると,

となります。これは真空中の光速より小さいのです。つまり,プラズマ中では,「位相速度は速い」が「群速度は遅い」のです。カットオフのアニメーションをよく観察してみましょう。波の先頭がプラズマ中に入ると少し遅くなるのがわかりますか?

 なお,位相速度と群速度が等しくなる時があります。それは,ωと k が比例関係 ω=ak にある時です。この時,波の速度は周波数に依存しません。このことを「分散がない」といいます。分散がない波の例としては,真空中の電磁波(電波や光)や空気中を伝わる音波があります。音波に分散がないのは重要です。もし音波に分散があったら音色によって伝わる速度が違うので,音の発生場所から遠ざかるにつれてメロディが変わってしまいます。コンサート会場で,かぶりつきで聞いている人と,遠くの立ち見席で聞いている人とで音が違っちゃったら「入場料返せ!」ですね。

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